受託製造業の生産性を考える①

1. サプライヤーの変化を知ろう!

 このブログは主に、日本製造業の設計者様や調達担当者様向けに、サプライヤー(受託製造業)側の視点から見た情報を共有する事を目的としています。

 本ブログでは、調達先も販売先もグローバルなビジネスをグローバルビジネス、調達先が主に日本国内で販売先がグローバルなビジネスを輸出ビジネス、調達先がグローバルで販売先が日本国内のビジネスを輸入ビジネス、調達も販売も国内のビジネスを国内ビジネスと呼びます。

 輸出ビジネスと国内ビジネスを合わせて、国産ビジネスと呼ぶこととします。

 御社のビジネスはどのようなビジネスでしょうか。もし、国産ビジネスでなければ、このブログは読み飛ばしてください。

 国産ビジネスであれば、是非このブログを参考にしていただきたいと思います。

 現在起こっている私たち受託製造業の変化を是非共有していただき、御社の強みに変えていただきたいのです。

 サプライヤーサイドの企業(主に受託製造業)が激減してしまった現在、従来のような発注者に都合の良い取引は成立しません。
 既にサプライヤーが発注者を選ぶ時代に入っているからです。

 国産ビジネスで、既に今後数十年に渡って依頼できるサプライヤーを確保できているメーカーは幸運と呼べるでしょう。

 多くのサプライヤーはあと5年もすれば様変わりします。
 既にゾンビ企業と呼ばれるような補助金や借り入れ無しでは経営が継続できず衰退し淘汰されていく多くの企業と、仕事の仕組みや取引相手を変えて大きく躍進する少数の企業に2極化していくと考えられています。

 既にサプライヤーの確保に苦慮しているお客様も多いのではないでしょうか。
 あるいは、当面は確保しているけれど、2年後、3年後はどうなるかわからないというお客様も多いと思います。

 多くのサプライヤーが主に経営者の高齢化で、後継者にも恵まれず、廃業を余儀なくされているからです。

 私たち受託製造業は、平成という時代を通じて衰退しました。
 実態としては、老齢の経営者が一人で何とか踏ん張っているような零細企業が多く、病気や体力の限界を迎え、既に大淘汰時代に突入しているのです。
 
あるいは、経営者の判断ミスで、安易な価格競争を繰り返した結果、自ら衰退を招いてしまった企業も多く存在します。
 むしろこのような企業の方が多数派と言えます。

 一方で、既に世代交代を果たした受託製造業は、新たなるサービスや新規の得意先を開拓し、昔ながらの値付け感のビジネスには見向きもしません。
 このような企業は少数派ですが、それぞれの特異な領域で存在感を発揮し、一般のお客様はアプローチできません。

 つまり、現在日本の国産ビジネスは、「供給の断絶」のリスクという大問題に直面していると言えるのです。

 解決策は、自らの製品やサービスの価値を向上させ、サプライヤーを単なる下請けではなく、ビジネスを共有するパートナーであるという発想に転換していく事だと考えます。

 まずは、何故このようになってしまったのか、メーカーサイドとサプライヤーサイドの両方の事情を良く知る立場として、このブログを通じて問題を共有していきたいと思います。

 そして、このブログが御社の製品やサービスの付加価値を上げるきっかけとなればと思いますので、是非ご一読いただけましたら幸いです。

2. まずは全体の変化から知ろう!

 まず今回は、町工場に関わらず製造業全体もしくはビジネス全般に通じるような、少し込み入った話をしたいと思います。

 皆さんは自分たちが普段している仕事の価値について考えたことがあるでしょうか。自分のお給料を働いた時間で割って、時給いくらといった計算をしてみた人も多いのではないでしょうか。
 しかし、自分のお給料は会社からすると人件費として経費の一部に組み込まれるだけです。

 実際に自分のした仕事の価値は、会社が顧客に対して求める費用に反映されているはずです。
 ここでは、まず日本の労働者の平均的な労働生産性について考えてみたいと思います。

平均所得の推移

図2-4-1 給与額の推移

国税庁 「民間給与実態統計調査」より

 まず、上のグラフをご覧ください。これは国税庁の公表している、民間給与実態統計調査をグラフ化したものです。


 国民の給与所得 = 年収の推移を1978年から2017年までプロットしたものになります。男女平均の給与所得は直近で420.4万円となります。最大値は1997年で467.3万円ですので、20年間で46.9万円平均年収が下がっている状況です。

 労働者の給与が1997年を境に、趨勢的には下がり続けているのは驚きですね。
 まずはこんな事実を皆さんご存じでしたか?
 日本人のサラリーマンは、実は貧困化しているのです。

 この数値は名目平均所得と呼ばれます。名目平均所得=実際に支払われた金額ですね。名目平均所得と同様によく使われるのが、実質平均所得です。実質平均所得は、物価の変動を加味した所得となります。

3. 実は先進国でも低い給与水準

 次に、日本の給与水準が国際的にみてどのような位置にあるのか、OECDの公表している興味深いデータがありましたので見てみましょう。OECD加盟の主要国の所得の推移を図2-4-2に示してみます。

 このデータは物価の変動を加味した実質平均所得の数値となります。

平均所得の推移 OECD

図2-4-2 実質平均所得の推移(自国通貨ベース、2000年を1とする)

OECD公表データ(www.oecd.org)より

 図2-4-2は各国の自国通貨ベースでの実質平均所得を、2000年時点で1とした場合の推移です。趨勢的には、各国とも概ね右肩上がりの様子が分かります。

 一部経済的に不安視されるイタリアやスペイン、ギリシャはアップダウンが見られます。

 日本はほぼ横ばいか、若干のマイナスとなっています。ある程度経済や政治が安定していると言われる国では、2000年時点に比べて概ね10~30%は実質所得が増加していることが分かります。その一方で、横ばいないしマイナスとなっているのは、政治経済的に不安視される国を除けば、日本だけのようです。

平均所得の推移 US$ OECD

図2-4-3 実質平均所得の推移(ドル換算)

OECD公表データ(www.oecd.org)より

 続いて図2-4-3は、実質平均所得をドルに換算した場合の推移です。基軸通貨であるドルに基準を合わせる事で、その国の平均所得が国際的にどの水準にあるのか比較できますね。

 人件費が高いといわれる日本ですが、平均所得ではドイツよりも若干低く、韓国の3~4割増し程度、アメリカの6.5割程度という事が分かります。

 ここで示される先進国の中では、決して高い方とは言えなさそうですね。
 むしろ低い方の部類に入るのではないでしょうか。

4. 仕事の生産性とは?

 平均的な所得の水準が把握できたところで、次に労働生産性について考えてみます。

 労働者の平均所得と、企業活動における付加価値額を結びつける指標として、労働分配率があります。

 労働分配率 = 人件費 ÷ 付加価値額

 ここでの人件費は、給与所得に加え、企業側で負担する法定福利費や厚生費を加えた金額となります。

 財務省の年次別法人企業統計調査では、企業の付加価値の構成を公表しています。
 企業の付加価値額のうち、人件費の占める割合=労働分配率ですので、調査結果から見ると日本企業の平均的な労働分配率は直近のH28年度で67.5%という事になりそうです。

 さて、平均所得が420.4万円、平均的な労働分配率が67.5%ですので、ここから日本人の平均的な1年間に稼ぐ付加価値額を逆算してみましょう。

 法定福利費、厚生費は合算で平均所得の15%程度と見積もってみます。

 労働分配率 = 人件費 ÷ 付加価値額

 労働分配率は、上式の通りでしたので付加価値額は下式の通りとなると思います。

 付加価値額 = 人件費 ÷ 労働分配率

                =  (420.4 * 1.15) ÷ 0.675

                   =  716.2万円

 この716.2万円というのが、平均的な日本人労働者が生み出す年間の付加価値額と言えそうです。
 これは、日本の平均的な労働者が生み出す年間の付加価値額=GDPと言えます。

 統計データで良く出てくる「一人当たりGDP」はGDP総額を総人口で割ったものですのでこの数値とは異なります。

 厚生労働省の毎月勤労統計調査では労働者1人あたり総実労働時間の推移を公表しています。

 直近のH28年度では、年間で1719.5時間となります。昭和35年度に最も大きく、2,426Hとなっています。

 あくまでも厚生労働省の統計値ですので、いわゆるサービス残業はこの数値には入りません。
 それにしても、昔は一年間に2400時間以上働いていた時代もあったという事に驚きますね。現在よりも平均で4割程度多く働いていたという事になりますね。

 H28年度における平均総実労働時間で、1人当たりの1時間当たり付加価値額を求めてみましょう。

 付加価値額(時間当たり) = 付加価値額(年間) ÷ 総実労働時間

                                          = 716.2万円 ÷ 1719.5時間

                                          = 4,165円/時間

 日本人の労働者は、1時間当たり4,165円の付加価値額を稼いでいる事になります。

 さて、労働者が1時間当たりに稼ぐ付加価値額は、前述の通り労働生産性となりますね。

 単なる賃金の比較ではなく、労働者一人当たりの労働生産性を考えるとより実態に合った評価ができると思います。

5. 日本の労働生産性はやはり低い!?

労働生産性の推移 OECD

図2-4-4 実質労働生産性の推移

OECD公表データ(www.oecd.org)より

 図2-4-4はOECD公表のデータから、実質の労働生産性(2010年度購買力平価ベース)を示したものです。

 当然ともいえますが、各国とも趨勢的に右肩上がりとなっており、労働生産性が向上していることが分かります。グラフの傾きが労働生産性の向上の度合いとなりますが、概ね同じような傾きを持っています。

顕著な伸びを示しているのはノルウェーですね。2008年に一度落ち込んでいるのは、リーマンショックの影響でしょうか。メキシコは、他の国と比較すると、それほど労働生産性が向上していないようです。

 この中で、日本の労働生産性はどのような状況かというと、1時間当たり41$くらいで、ドイツの約7割、韓国の3割増し程度、アメリカの6.5割程度という事がわかります。
 この数値は先ほど見た4,165円/時間ともある程度合致しますね。

 先ほどの平均所得の状況からすると、韓国やアメリカとの関係はあまり変わらないようなのですが、ドイツとの関係は大きく異なるようです。

 平均所得はドイツと日本は同程度でしたが、労働生産性を見るとドイツの方が日本よりもかなり高い水準です。同じ工業立国でありながら大変興味深いところです。

 上記より言える事は、日本の所得水準も労働生産性も、先進国の中ではまだまだ高い水準ではないという事です。

 今回はそもそもの仕事の価値について考えてみました。
 同じ日本人が働く労働の価値は、現在のところ4,500円/時間くらいが標準と言えそうです。

 しかし、他の先進国を見渡せば、もっとこの価値を高めていく事が可能であることがお判りいただけたのではないでしょうか。
 先進国の中ではむしろ低いと言われている日本の労働生産ですが、それでも1時間に4,500円の付加価値を生み出すのが普通だという事をまずは知っていただきたいのです。

 まだまだ日本は、労働による仕事の価値が低く、ましてや労働者の賃金は上昇どころか減少しています。
 受託製造業ばかりではなく、日本そのものが貧困化しているのです。

 仕事の価値を上げ、消費者でもある労働者に相応の賃金で報いて、日本国内の消費=市場を大きくしていければ、企業も労働者もより豊かになっていきますね。

 その根本となる、労働への価値を高めるにはどのようにすればよいでしょうか。

 次回以降で、順を追って一緒に考えていきたいと思います。

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