受託製造業の成立性を考える④

1. 新興国の実力とは!?

さて、話を新興国とのビジネスについて進めたいと思います。

 今までの統計結果は日本国内およびOECD加盟国のデータですので、中国や東南アジアなど新興国のデータが入っていません。

 今回は、日本貿易振興機構(JETRO)の統計データを見る事で、新興国の状況についても考えてみたいと思います。

 まずは、直近3年間の実質GDP成長率をプロットしたグラフです。

実質GDP成長率

図1 実質GDP成長率
JETRO 投資コスト比較より

インド、中国、ベトナムなどの新興国と、日本やアメリカなどの先進国で大きな隔たりがあるのがわかります。新興国は概ね高い成長率でGDPが増大していることが分かります。

つづいて、一人当たりの名目GDPです。

1人あたり名目GDP

図2 一人あたり名目GDP(ドル換算)
JETRO 投資コスト比較より

アメリカや、ドイツ、日本と比べると、新興国の一人当たりGDPは軒並み低い水準である事が分かります。しかも直近3年間では大きな変動はないように見えます。

日本と比較すると、中国は21%程度、ミャンマーで3%程度です。

一人あたりの名目GDPがあまり変化していないのに、実質GDPが増えて経済成長しているのは何故でしょうか。いくつか要因があるように思います。  

1. 労働人口が増加している、2.物価が上昇している、3.ドルとの為替レートが変化しているといったところでしょうか。ここまでくると、専門家でない私にはよくわかりません。

2. レイバーコストを考えてみる

さて、次にいわゆるレイバーコストと呼ばれる労働者の平均月給についても見てみましょう。

ワーカー 賃金

図3 ワーカーの平均月給
JETRO 投資コスト比較より

図3はいわゆる労働者層の平均月給です。

工場の作業員などの労働者という事ですね。
1996年、2006年、2016年と10年おきにプロットしてみました。

この平均月給は、電話での聞き取り調査結果などが含まれたり、各国で集計の仕方が異なるため、厳密な比較にはなりませんが、趨勢的な傾向は見て取れると思います。
統計結果の数値にも幅がありましたので、このグラフでの数値はその中央値としてあります。

まず、1996年から2006年にかけては新興国では大きな変化が無いように見えます。
2006年から2016年にかけて各国での動きが顕著に見て取れます。

特にワーカーの賃金が極端に上昇しているのは中国ですね。10年間で5倍以上になっています。その他の新興国でも、ミャンマーで約5倍、タイやバングラデシュで2倍強、フィリピンやベトナムで1.5倍程度です。

逆に、日本や台湾では下がっています。

また、いわゆる一般の労働者層だけでなく、エンジニア層、中間管理職層についての結果も掲載されていたので、ご紹介しましょう。

比較のために、ドイツ(デュッセルドルフ)とアメリカ(サンフランシスコ)の2016年の数値もプロットしてあります。

ドイツ、アメリカや新興国等の海外では、エンジニアや中間管理職など職級が上がるほど、賃金の上がり幅が大きいように見えます。

エンジニア 賃金

図4 エンジニアの平均月給
JETRO 投資コスト比較より

中間管理職 賃金

図5 中間管理職の平均月給
JETRO 投資コスト比較より

それぞれの職級における、日本と各国の比率をまとめてみましょう。

対日本の平均賃金比較 JETRO 投資コスト比較

図6 各職級における対日本の平均賃金比較(2016年)
JETRO 投資コスト比較より

2016年の各職級における平均賃金について、日本を100とした場合の割合を示したものです。

韓国を除いては、労働者→エンジニア→中間管理職と職級が上がるにつれて日本との割合が増大していく事が見てとれます。

日本では職級が上がっても大して賃金が増えない一方で、国際的には大きく賃金格差が出るという事なのでしょう。

ドイツやアメリカは中間管理職となれば、日本の倍以上の賃金となります。新興国では、労働者と中間管理職の平均賃金で2~6倍の開きが出ています。

職級間での格差が大きいとも取れますし、職級(=期待される能力や成果)に対して対価をしっかり支払うという傾向ともいえるかもしれません。

前者の捉え方をするならば、国際的には労働者層は低賃金に抑えられるのが当然という情勢に対して、日本では職級間での格差は小さく、労働者層の賃金は“いまのところまだ良い方”なのかもしれません。

3. 日本製造業逆転のチャンス!?

さて、話を元に戻して新興国への仕事の流出について考えてみたいと思います。

確かに、上記で見ていただいたように新興国の労働者の賃金は日本と比べてまだまだ小さいと言えます。

新興国がいずれ経済発展すれば、人件費も上がりいずれは日本との賃金差が無くなっていくので、仕事も国内に戻るのではないかという観測もあると思います。

しかし、1人あたりGDPの変化や、賃金の推移などをみても、日本のそれとの差が有意になるほど縮まるまでには、まだまだ時間がかかるでしょう。

特に特殊な技能を必要としないような量産品の生産などが、新興国に流れていくのは当然と言えば当然です。

人、モノ、金が自由に国境を超えるグローバル化が進むというのは、国民生活の各所で他国のレベルと平準化が進むという事だと思います。
労働者層の賃金が新興国と比較されて、新興国に仕事が流れるという事は、比較的先進国として分類される日本が、新興国の経済レベルに平準化される過程の一部として理解できると思います。

私自身は、グローバリストでもなければ、反グローバル主義者でもありません。しかし、国内の1事業者としては、グローバル化の状況変化に対しても、対応していかなければいけません。嘆いていても状況は改善されません。

既にご紹介したように新興国との低賃金競争に巻き込まれては、事業の継続ができないのです。

逆に、アメリカ、ドイツなどの先進国からすると、自国よりも日本の労働者の賃金は割安感があるのでしょう。

日本の労働者は技術レベルでは先進国水準と言えますが、賃金レベルは比較的低く抑えられているため、絶妙なポジションと言えるかもしれません。当然今まで見てきたグラフは、ドル換算したコストで比較しているため、為替の影響を大きく受けますので安心はできませんが。

上記から私が思うのは、日本人の労働者としては、自分たちの労働の質や労働生産性を上げる事で、付加価値の高いビジネスを増やし、賃金を向上させていく余地が大いにあるのではないかという事です。

少なくとも、新興国に仕事を奪われるという感覚ではなく、付加価値の低い仕事を新興国に任せ、そういった仕事から“卒業”して、例えば自国内や先進国相手の付加価値の高い仕事を増やしていく、という感覚を持つべきではないかと思うのです。

エンジニアや中間管理職といった、職能レベルが高くなるほど、日本人の労働者は割安になっていくという事もわかりました。
技術的なレベルを上げるほど、海外に“売れる”ものは増えるはずです。

新興国と同水準の単価で受けられる仕事を国内企業に求めるのは無理な話です。

新興国でできる仕事は新興国で、日本でしかできない仕事は日本の企業から調達すれば良いのだと思います。

日本の中小製造業も、新興国と同じ土俵で勝負しようとしたら、価格差で負けるのは当然です。
自分たちにしかできない仕事に注力し、新興国にはできない自分たちらしいサービスとして、正当な対価を得られる事業を作らなければいけないと思います。

まずは、国内事業者がお互いの強みを棚卸し、認め合ったうえで連携し、日本でしか作れないモノやサービスを創り出していく事が必要ではないでしょうか?

いつまでも、新興国と張り合っていては、自他ともに疲弊してしまいます。

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