受託製造業の成立性を考える①

1. 危ぶまれる事業継承の実態とは

 私たちのような中小製造業(いわゆる町工場)は、製造業の末端で多様性を発揮してきました。大手製造業が開発や、組立工程に専念していくのに対して、町工場は自分たちの得意技術で様々な業界のお客様の仕事をこなすという「多様性」を担ってきたわけです。

しかし、昨今は町工場の多くが倒産、廃業を余儀なくされ、企業数が激減するとともにこの多様性も損なわれつつあります。

何故このような事態になったのでしょうか。
また、このような状態を脱却する術はあるのでしょうか。

現在までの流れと、現在起こりつつある変化を整理する事で、今後の製造業継続へのヒントを探ってみたいと思います。

まず、近年特に寄せられることの多い典型的なお客様からの相談事をご紹介いたします。

<相談事例1: 長年製作実績のある部品製造の継承>

お客様(A社)は創業以来一貫してある装置を作り続けている中小規模のメーカー様です。

基幹商品は、ユーザーのニーズに合わせて細かくラインナップされており、多品種少量での生産体制をとっています。基本的には、在庫を持たず受注を受けてから製作を開始する、受注生産を心がけています。

製品を構成する部品のうち、基幹となるいくつかの部品を長年付き合いのある部品加工業者B社に発注してきたとの事です。

B社は創業以来40年以上にわたってA社の部品加工を手掛けてきたのですが、経営者の高齢化と後継者不在により、あと半年で廃業を決めたようです。

そこで、A社はB社が廃業する前に、調達してきた部品を代わりに製作してくれる加工業者を探す事にしました。しかし、どの業者からも断られたため、当社に相談を持ち掛けてきたとの事です。

当社では、早速これまでの実績部品の現物や図面を見せてもらい、見積をする事にしました。
当社の平均的な見積金額は、多品種少量品や単品部品については4,000~5,000円/時間程度で算出しています。

いくつかの部品について、加工工数を積算し、見積を作成、提出しました。
しかし、その後A社からの連絡は一向にありません。そこで、担当者に連絡してみたところ、次のような回答が返ってきました。

「見積書を見たところ、従来の発注費の2~3倍となり、話にならない。当社も商品の卸値をずっと変えていないため、この金額は許容できない。したがって、従来と同等かそれ以下で受託してもらえる加工業者を他に探す事にした。」

「やっぱり。。」と私は思いました。

じつは、このようなご相談が今非常に多いのです。そして、結果は概ね上記と同様に従来金額の2~3倍です。
モノによっては5倍以上なんて言う話もありました。

残念ながら、このような経緯でご相談いただく実に90%以上が、標準金額を大きく下回る水準の仕事ばかりなのです。

当社は確かに高付加価値品の扱いが多いのですが、それでも4,000~5,000円/時間というのは、今まで示してきた通り決して高い金額水準ではないはずです。
むしろ、これからのビジネスを考えていく中では安すぎるとさえ感じています。
(本来であれば6,000~7,000円/時間を標準とすべきです)

現に、幸いにも当社をご信頼いただき仕事をご依頼いただくお客様は増加傾向にありますし、当社の1.5~2倍程度の金額水準の受託加工の業者も相当数存在するくらいです。

そこで、先の担当者に次のような質問をしてみました。「B社さんへの発注金額は、取引開始から値上げしたことはありますか?また、今回の案件については一回当たりの発注数を増やして単価を下げるという考えはありますか?」

回答は、いずれも“ノー”でした。

この2つの質問に対する回答は、2つの大きな問題が端的に表れていると思います。
1つは、これまでの受注者側のビジネス意識の希薄性、もう1つは発注者側の調達に関する硬直性です。そもそも、A社が製品の値上げをしていない、という事も気にかかります。

長期間、例えば40~50年間、同じ受注金額で部品製造を請け負うとはどういう事でしょうか。もちろん長年同じものを作り続ける事で、極限まで工数を削減するなどの努力は可能でしょう。

事実、多品種少量品で当初の受託時から、工程の見直しや手慣れによって2分の1程度にまで工数を削減できた、という話はよく聞きます。しかし、同じだけ、やってもやっても工数を削減できるどころか、余計な手間が増えて採算が合わない、という話もよく聞きます。

2. まずは物価について考えてみる

 さて、例えば現在の1万円と、40年前の1万円は同じ価値を持つのでしょうか。答えは“ノー”ですよね。現在と当時のモノの価値は大きく変わりますので、同じ1万円で買えるものも異なります。
その違いが、すなわち物価の違いというわけですね。

それでは、日本における物価はどのような変遷を経てきたのでしょうか。物価の考え方や尺度は実に様々なものがあるそうなのですが、ここでは財務省 統計局で公表しているデータのうち、2015年を基準(100)とした場合の、消費者物価のグラフを図2-5-1に示します。

物価の変遷

図1 消費者物価指数 2015年基準 東京都区部 持家の帰属家賃を除く総合

政府統計の総合窓口(e-Statより)

このグラフを見ると、1990年頃から物価がほぼ横ばいである事がわかります。

具体的な数値をわかりやすくするために、5年おきの消費者物価の数値を見ていきましょう。

 1970年 32.1

 1975年 54.8

 1980年 75.6

 1985年 87.6

 1990年 94.3

 1995年 100.1

 2000年 100.8

 2005年 97.9

 2010年 96.9

 2015年 100.0

2017年現在から40~50年前はいわゆる高度成長期にあたりますね。この時の物価は経済成長に合わせてどんどん上昇しているのが見て取れます。現在の感覚からすると、45年ほど前の1970年は約3分の1、1975年で約2分の1の物価であることが分かりますね。

つまりは、現在の感覚で4,500円/時間の仕事が、1970年では1,445円/時間、1975年では2,466円/時間となるわけですね。

取引開始の当時に、この物価水準で単価が決まったとして、そのままずっと値段が変わらなかったのだとしたら、現在でも1,500~2,500円/時間の仕事をしている町工場も少なくないのかもしれません。

上記の通り、長年行われてきたビジネスの継承の問題点の要因の一つに、物価の違いがあるのは間違いなさそうです。

本来物価が上昇するのであれば、それに合わせて企業は加工賃を値上げし、従業員の賃上げをするのは当然のことです。
あるいは、設備投資を進めて、従業員一人当たりの生産性を向上させる必要もあるでしょう。

しかし、物価が上がっていくにも関わらず、加工賃を変えないのは何故なのでしょうか。

加工賃を変えないという事は、従業員の人数や賃金が増えない、新しい機械が買えない、という事を意味するのではないでしょうか。

上の事例では、メーカー側も売値を変えていないようです。つまり、物価が上昇しても、売値も仕入れ値も変えていないという事ですね。

私はここで、あるストーリーを考えてしまいます。社長さんが1人で経営する架空の町工場の物語です。少し長いですが、以下のストーリーをご一読いただければと思います。

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(1) ある東京の下町に、2017年時点で75才となるCさんが一人で営む町工場があります。Cさんは、高齢となってきたのでそろそろ廃業して隠居生活をしたいと望むようになりました。しかし、現実には会社は数千万円の負債を抱えており、このまま引退というわけにもいきません。Cさんには何人かの息子がいますが、一般の会社でサラリーマンをしており、会社を引き継ぐ意思はないようです。

(2) 50年程前、Cさんが若かった頃は良い時代でした。世の中は高度成長期と言われ、どんどんモノが溢れ、豊かになっていきました。Cさんの勤めていた会社にも、どんどん新しい仕事が舞い込むようになりました。当時Cさんは、あるメーカーの製造部門で金属の機械加工を担当していたのです。Cさんは、丁寧な仕事が評価され、会社内外ではこの地区で一番腕の良い職人と褒めたたえられます。Cさんはひたすら仕事をこなし、お給料を貯め、40年程前に念願だった独立を果たします。

(3) 前職の会社とも良い関係で、仕事を流してもらったり、当時のお客さんからCさんの会社指名で仕事が舞い込んできたりしました。この頃は、ちょっと資金繰りが厳しいながらも、寝る間も惜しんで仕事に没頭し、何とかやりくりしながら会社経営を続けました。

(4) 15年ほど前、突然取引先から減産の要求を突き付けられます。どうやら、ユーザーのニーズに合わせて、ラインナップを増やす事になり、多品種少量の生産体制となったことに加え、値段の安い郊外や海外の工場に一定数の仕事を回すようになったそうです。ロット数は従来の3分の1程度に減りますが、価格は据え置きというのが取引を継続する条件でした。

Cさんは、何名かいた従業員に辞めてもらい、自分のお給料を減らし、取引銀行には借入金返済の猶予を申し入れます。自分のお給料分くらいであれば、3分の1に売り上げが減ったとしても何とかやりくりできる、と思いました。取引銀行も、このままCさんの会社が倒産すれば貸し倒れとなりますので、当面は利息の支払いのみで元金の返済は猶予するという条件を飲んでくれました。

(5) Cさんも、ただ手をこまねいていたわけではありません。新しいお客さんの仕事を獲得しようと、1人で現場仕事をこなす合間を縫いながら、新規営業に奔走します。

努力の甲斐あって、新しいお客さんからも仕事が回ってくるようになります。Cさんとしても、今までと同じ程度の時間単価で、仕事量が増えたのです。借入金もこの頃には、千万円程残った状態でしたがそれほど気にしませんでした。最盛期の感覚から言えば、すぐに返済できる金額だったためです。

(6) 徐々に売り上げも伸びてきました。低迷していたころと比べると、なんと3割も売り上げが伸びたのです。借入金の元金も返済が始まりました。この調子で続ければ、何とかもう一人従業員を雇う事もできそうです。

さらに、大手の企業から新しい大口の取引についても引き合いが来ます。早速、Cさんは事業拡大を考え始めます。

(7) 新たに借り入れを起こして最新のマシニングセンタを導入し、従業員も増やしました。早速新しい大口の仕事に着手し、苦労して全ての工程を完了させて最初のロットを納めます。

数日後、顧客の品質担当者から電話がかかってきます。ある部位の穴加工が全て公差外のため、全て返品の上再製作しろという事でした。しかも、お客様も納期に余裕が無いため、一日も早く対応してほしいとの事です。

従来のお客さんとは阿吽の呼吸で仕事をしていましたが、今回のお客さんは少し勝手が違うようでした。従来のお客さんは何かあれば、「生産部長」や「品質課長」が工場に来て、一緒に不具合の対策を考えました。「設計部長」と話をして、過大な公差要求だったために図面を変更してもらい全てOKとなったこともあります。

今回は、「購買担当者」から、問答無用にNG、そして再製作の指示が来たのです。受け入れ検査を担当する「品質管理部門」からの報告で、穴の寸法が2μm程大きいため全てNGとの事です。

「その2μmは本当に必要なのか?」と問い合わせようとはよぎりましたが、Cさんとしても新しいお客さんをここで逃すわけにはいきません。2週間ほど徹夜も含めて突貫対応をした末、再製作品を納めました。

この間、他のお客さんの仕事は全てストップです。他のお客さんには、事情を説明し納期を遅らせてもらう事にしました。中には、「だったら今回の依頼はキャンセルして、他の加工業者に転注する」というお客さんもいましたが、今はこの不具合対応に集中するしかありません。

(8) 実はその後、このようなやり取りが、延々と繰り返される事になったのです。いくら良いと思ったものを納めても、突貫での再製作を指示されます。Cさんは、たまらずにこのお客さんの仕事をあきらめる事にしました。

(9) そして現在、一人で細々と仕事を続けてはいるものの、相変わらず日々の暮らしで精一杯な状況です。10年ほど前から、国民年金も受給が始まりました。年金と、会社からの給与所得を合わせれば、何とか生活していけます。

新規の仕事も少し入っては消えという状態ですが、自分一人でこなせる仕事だけ受注すれば良いという気軽さもあり、ある種のやりがいも感じています。昔の馴染みも仕事を分けてくれて、高齢とは言えまだまだ1日に7時間以上は働く現役の職人です。

息子たちは既に独立して、各々家庭も持っていますし心配はありません。働けるだけ働いて気が済んだら、会社を清算して廃業しようと心に決めたのです。

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さて、いかがでしょうか。私からすると、日常的に耳にするような典型的な話を詰め込んでみました。

お気づきの方もいるかもしれませんが、この架空のストーリーに登場するCさんの会社は、前出のB社をイメージしたものです。

B社を経営するCさんの目線でみると、このようなストーリーがあってもおかしくありません。

そして、このストーリーの中で、Cさんや取引先が一度でも物価や取引のいびつさを意識したり、改めようとした場面があったでしょうか。
実は、Cさんは今でも50年前の物価水準の単価を引きずっている事が分かると思います。
いくら働いても、年金と合わせてやっとの生活費、という事は仕事だけでは生活が成り立たないという事ですね。

また、単なる物価の変動だけでなく、仕事を発注する側の事情にも触れてみました。実は、この数十年のうちに、発注者であるメーカー側の状況も変化していることが分かると思います。

以前は、お客様の規模も大きくはなく、技術部門の担当者が頻繁に下請け工場に顔を出して、細かい擦り合わせを繰り返していたという話をよく聞きます。

近年は、実際に図面を描く技術担当者と、仕入れの発注を担当する購買担当者が分離される企業が増えているようです。特に大きな会社になるほど、この傾向は顕著になります。

購買担当者からすると、B社は数ある下請け企業の1つです。購買担当者としての使命は、1円でも安く購入品を仕入れる事ですから、図面の詳細であるとか、加工の難しさといった事よりも、いかに自分の担当するアイテムを安価に仕入れ、効率よく捌くかが重要視されるのは自然な事でしょう。

品質保証についても同じような事が言えると思います。技術担当者や営業担当者以外に、品質保証の責任者を設ける事は、コンプライアンスの上からも重要な事は理解できます。

しかしながら、実用性を無視した、行き過ぎた品質保証の姿勢は、下請け企業を疲弊させるのです。

いかがでしょうか、受託製造業のビジネスについて、発注側、受注側の事情にも入り込みながら、現在起こっている典型的な例について触れてみました。

これからの製造業を考えていくにあたって、まずは現在行われている明らかにおかしな値付けのビジネスについて、一度棚卸してみてはいかがでしょうか。

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