受託製造業の成立性を考える③

1. 中小企業の稼ぐ力とは?

まずは下の統計データを見てください。

各種指標のシェア 2002年

図1 各種指標のシェア(2002年)

経済産業省 工業統計調査より

各種指標のシェア 2014年

図2 各種指標のシェア(2014年)

経済産業省 工業統計調査より

 労働者数、付加価値額、給与額の全体の中での割合を図1、図2にまとめてみました。零細、小規模、中規模企業はひとまとめに中小規模にまとめてあります。

 2014年時点で労働者数は、中小規模が全体の68.4%を占めますが、付加価値額は53.7%程度になっています。付加価値額、給与額ともに中規模企業が大体平均値となりますので、中小規模の一人当たり付加価値額、給与額は平均値以下の人の割合を示す事になります。

つまり、所得が平均値以下の労働者が全体68.4%ほどを占めるという事ですね。全体の2/3が平均値以下、1/3が平均値以上という事です。

以上の事から、稼ぐ力の弱い中小企業が減少しているものの、依然として労働者数の大半は平均所得や付加価値額の低い中小企業に偏っている事が見て取れます。

いわゆる町工場の大半は19名以下の零細企業です。実は、小さな町工場ほど多品種少量品を扱っている所が多いのです。
あるいは、量産を手掛けているような零細企業から淘汰されている、と言った方が実態に即しているのかもしれません。

特にメーカーの開発品の部品製作などでは、単発の仕事で多品種の加工部品を製作しなければなりません。当
然、量産メーカーは試作用の製造設備は限られていたり、そもそも設備していなかったりしますので、こういった仕事は色々な経路で、結局は零細企業に回ってくることが多いのです。

趨勢的には、メーカーの試作開発案件そのものが減少しているのかもしれませんが、それ以上の勢いで零細の町工場が減少していると思います。
何せこの12年間で事業者数は3分の2になっているのですから。

 さらに言ってしまえば、今まで見ていただいた統計結果は、従業員が“4名以上”の企業です。すなわち、3名以下の企業については、統計の数にすら入っていません。個人事業も含め、3名以下の零細企業は、実は相当数あります。統計に入らない倒産、廃業が実は圧倒的に多いのではないでしょうか。

 ここまでで言える事は、多品種少量生産、単発の開発品の製作を請け負うような中小零細企業が減ってきているという事です。

その原因として考えられるのは、中小零細企業の対価への水準が低く、資金繰りが悪化して倒産を余儀なくされる企業や、低所得な仕事に人が集まらず後継者がいないために廃業を余儀なくされる企業が増えたためではないでしょうか。

2. 進町工場の変化

所謂元受け企業のように、仕事を下請けに出す立場からすると、外注に出す選択肢が急激に減ってきているのだと言えます。

生き残っている中小零細企業は2極化しています。A:まだ何とかビジネススタイルを変えずに生き残っている企業と、B: ビジネススタイルを大きく変えて成長している企業です。

2極化していますので、平均を取ると従来からの変化があまり無いように見えるのかもしれません。

ビジネススタイルを大きく変えている企業は、現在忙しいところがほとんどでしょう。

サービスの質を上げ、労働生産性を向上させているはずです。
従来の単価設定のビジネスからは“卒業”している企業も少なくないと思います。
人手不足も追い風になり、需要よりも供給が減っている局面ですから、この需給ギャップにより仕事も絶えないはずです。

こういった企業は、新しい高付加価値の仕事が舞い込む循環に入ります。

残念ながら、相見積もりを取られている事が分かっている価格勝負の仕事にまで手が回りません。

これがD社の担当者が疑問に思う1つめの問い「見積もりが返ってこない」に対する答えではないでしょうか。

元受け企業はこうした付加価値の高いサービスを提供できる協力企業を持っていることを強みとして、より高い価値の仕事を開拓する事が必要になると思います。
むしろ、元受け企業としても、サービスの質を上げる良いチャンスともいえるのではないでしょうか。

「見積金額がばらける」事情も、このような背景から推測できます。

上の2極化した中小零細企業のうち、Aのパターンの企業は値段を下げてでも仕事を取りたい企業です。当然限界ギリギリの金額で見積を出すでしょう。

あるいは、前出の昔の物価水準を引きずった単価設定の企業もあると思います。私の感覚値で言えば、1,500~3,000円/時間の見積金額と考えてよいと思います。

Bのパターンの企業は、自分たちの対価についてしっかりと要求します。営利企業なのですから、当然と言えば当然ですが。イメージとしては4,500~6,000円/時間の見積金額となるのではないのでしょうか。

それでも、この単価は“ぼったくり”という水準ではありません。

最新の設備投資をして、質の高い従業員を雇用していれば当然これくらいの付加価値を生み出さなければいけないわけです。

上記からいえる事は、その企業の置かれている状況だけでも、3~4倍の価格差が生まれてもおかしくはないという事です。

さらに、見積の担当者によっては、想定する工数や、リスクの度合いが大きく変わります。

特に、クレームや難易度の高さによる再製作や手直しの発生は、受注企業からするとリスクになります。
図面から読み取れるリスクばかりではありません。
むしろ図面に書かれていない部分に、リスクの多くが隠れています。

この見えないリスクを、どの程度見積金額に盛り込むのかが非常に難しいのです。

3. スムーズに発注に繋げるコツとは!?

見積金額がばらけたり、想定よりも大幅に高くなってしまうような場合の要因について、私なりに思う事をもう少し具体的にご紹介したいと思います。

 a. 見積についての条件(レベル感)が十分に共有できていない

 b. 過去の案件で過度な品質要求があり、警戒されている

 c. そもそもの図面で要求している品質レベルが高すぎ、

受注側での工数やリスクの正確な見積が困難

 a,については、私も常々感じているところです。

エンジニアのお客様からお引き合いいただく際には、特に注意したいポイントであるとか、隅Rがどの程度必要かといった加工の内容に踏み込んだ部分まで十分にすり合わせが行えますので、精度の高い見積もりが可能です。

しかし、図面が送られてきただけで、その他の条件は一切得られないまま見積金額を要求されるケースというのが残念ながら非常に多いです。こういった場合は正確な見積算出が難しいのです。

見積算出に図面以外で最低限必要な情報は次の通りです。

  • 手配数量、リピートの場合はロット数
  • リピート性の有無、頻度
  • 請負の範囲(図面の内容すべてなのか、一部なのか)

手配数量は見積金額に大きく関係します。同じ部品を製作する場合でも1個製作する場合と、10個製作する場合では、1個当たりの作業工数が変わるため単価が大きく変化します。当然、1回あたりの手配数量が増えるほど単価が下がります。

b.については、良くこんな話を耳にします。新規のお客様からの仕事を受けて、通常の感覚で加工して品物を納めたけれども、1か月後に外観に傷があるとクレームが入り再製作になった。

もともとその公差は厳しいから外れるかもしれないという前提で加工の仕事を受けたはずなのに、1μm公差から外れたため全品再製作になった。

こういった話は、あげればきりがありません。
町工場あるあるの典型例ですね。

エンジニアに確認したらOKなことも、間に他の部署や企業が入る事で、綿密なすり合わせができず、とにかく「図面通り」でなければNGとされる事が多くなっています。

お客様の中では、こういった硬直性を“品質管理”や“コンプライアンス”という言葉で済まされているのでしょう。

しかし残念ながらこういったケースが重なると、受注企業としてはそのリスクを全て価格に転嫁せざるを得ないわけです。

「あのお客さんだから1回分は再製作できるだけの単価にしておこう」といった話になるわけですね。

c.については、最近の風潮ですがとにかく寸法公差が厳しい、実現が極めて難しい形状があるなどの問題があります。

ぱっと見た感じでは難しくない加工品ですが、注意深く見てみると全く現実味のない極めて難易度の高い加工であるとわかる事があります。

それを見抜けずに、安易に安い金額で見積を出して、再三作り直しを迫られるという経験は、町工場の営業担当者は誰しも経験しているはずです。

実際には、加工してみないとわからない、という図面が多いのが現実的な意見でしょうか。

真面目に図面通り作ろうとすればするほど、コストはあがるのです。

上記のa~bと、前述した物価やビジネススタイルが相まって見積金額が出てきます。

例えば、図面と手配数量だけをメールで送って10社ほどに見積依頼した場合、最安値と最高値で5倍以上開きがでる事も少なくないと思います。 

4. あなたの見積もり依頼がたらい回しになっているかも??

また、余談ですが次のような事例もよく聞きます。

ある町工場は、数十社の顧客を抱え多品種少量の製造を請け負っています。
顧客は、直接取引している大手メーカーもあれば、商社を介して取引しているメーカーもあります。

多品種少量ですので、一日に20~50点ほど新しい加工品の引き合いがあります。
ほとんどが単発案件です。

新規の商社から、新しく引き合いがあり急いで見積をしてほしいという連絡がメールで入りました。メールに添付された圧縮フォルダを開くと、100点を超える図面が出てきました。これを翌朝一番で見積提出して欲しいというのです。

営業担当者は、その日一日の業務を中断し、徹夜で見積をしました。初めてのお客様なので、値段も大幅に割り引いて提示します。

その後、顧客である商社からの回答は一向にありません。

確認のため連絡をいれてみると次のような回答でした。

「市場調査のための相見積もりで、今回の発注予定はありません。また時期が来ましたら、見積をお願いします。当社は、取引の公平を期すために必ず相見積もりとなります。」

市場調査のための相見積もりとは何でしょうか。
また、公共事業でもないのに取引の公平を期すための相見積もりを取る必要性はあるのでしょうか。

要するに、発注したい企業との相見積もりを揃えるための“当て馬”、として利用されたわけですね。

私たちは、お客様の望む製品や部品を、相当する対価をいただいて提供するのが仕事です。正確な見積金額を出すのが仕事ではないはずです。

見積そのものが、目的と化してはいないでしょうか。
見積をするにも相応のコストがかかっている、という事実を見落としているお客様も多いと思います。

見積は無償サービスが当たりまえという感覚になっていないでしょうか。

この町工場は、次回からは見積は有償とします、と伝えたそうです。
その商社は次から連絡が来なくなったそうです。

しかし、その数日後、同じ内容のメールがこの町工場の仲間の会社に、この商社から届くのでした。

最近ではこのような、見積のたらいまわしが非常に良く起こっています。

貴方が依頼して見積もりの回答がなかなか返ってこない裏には、このような受託製造業の構造変化が隠れているかもしれません。

既に相当に供給力を毀損されている受託製造業ですから、今後単発品や多品種少量品の依頼をしようにも、以前ほど手を挙げられる企業は多くないはずです。

以前は、「こっちが高ければ、あっちの下請けに転注しよう」と、容易に下請け企業を変えることができたかもしれません。

しかし、現在はその選択肢が狭まっているだけでなく、安易に安値競争をけしかけたり、転注するような元受け企業は、下請け企業の方から支持されません。

当然受託製造業は狭い業界ですので、元受け企業の発注に対するスタンスは多くの場合共有されています。

特に「会社」というよりも「担当者」レベルでの情報共有が進んでいます。

これからは、受託製造業への委託についても、今までのような代わりの効く単なる「下請け」という存在ではなく、一緒に自社の事業を担ってもらう「パートナー」としての付き合い方が求められることになると思います。

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