受託製造業の成立性を考える②

1.見積が返ってこない!!

受注金額に関する最近の相談事例をご紹介しましょう。

<相談事例2: 開発品の部品製作費用>

お客様(D社)は、大手メーカーにも出入りしている数百人規模の機械部品商社です。

機械部品商社は主に、お客様であるメーカーから機械部品の図面を預かり、協力工場に依頼して製作し、メーカーに供給します。

営業面、物流面での潤滑役として、製造業の中で貴重な役割を果たしています。

このD社から最近ご相談いただいた内容は次の通りです。

「我々は大手メーカーの開発品の機械加工部品を扱って10年になるが、最近いくら図面を下請け企業に送って見積依頼をしても見積が返ってこない。あるいは、通常10社程に相見積もりをとっているが、見積金額が大きくばらける。

最近は国内の下請け企業よりも、中国の協力工場の方が単価も納期も半分程度で対応してくれるので、重宝している。しかし、海外からの調達は為替のリスクや、コミュニケーションの問題で不安が残るし、トラブルも頻発している。どこか国内で、中国と同程度の単価で対応してくれる協力工場はないものだろうか。」

このような話も、耳にする事が多くなりました。前回の事例1は、国内企業の長期にわたる物価の変動に関する問題でしたが、今回は国内企業自体の状況の変化や、海外特に新興国との問題と言えそうです。

国内の町工場は、全盛期からするとかなり減ってきています。
特に相談事例1で見ていただいた例が典型ですが、後継者不足により倒産でなく廃業という道を取る町工場が近年急激に増えてきたように思います。
特に“1~3名程度”の町工場の廃業が増えていると感じています。

生き残った町工場は2極化しています。すなわち、「単価を下げて仕事量を追い求めるスタイル」と、「単価を上げて多品種少量の仕事を選ぶスタイル」です。

また、国内の製造業のうち、新興国に仕事を奪われたと言われる事案を良く耳にします。
主に量産に関する業態がその影響を大きく受けたようです。
例えば、射出成型やプレス加工、メッキ処理などでしょうか。

同じ条件で、大量に処理する加工は、いわゆるレイバーコストの安い新興国に流れやすいのはよくわかります。

その後、精密機械加工など、小~中ロット程度の生産に向いた加工技術も新興国に流れ始める事になります。そして、近年では試作などの1点モノでも新興国での調達が当たり前となったのです。

日本国内の町工場は、国内ばかりでなく新興国も競合相手となったわけです。

この背景には、情報技術の進展による連絡手段の簡便化、すなわちインターネットでの手軽な企業検索や、メール一つで複数社に同時に見積依頼する事が可能となるなどの利便性の向上があると思います。

また、自由貿易を推し進めようという機運もあると思います。
いわゆるグローバル主義という方向性ですね。

上記を整理してみると、この問題には次の2つの問題点が含まれていると言えそうです。

1. 国内の町工場の減少と、ビジネススタイルの変化

2. グローバル化の進展と、新興国への“仕事”の流出

2. 国内製造業の変化とは!?

 まず、1.国内町工場の減少とビジネススタイルの変化について考えてみましょう。

 図1は国内製造業の事業所数、図2は従業員数の変遷です。

国内製造業の事業所数

図1 国内製造業の事業所数

経済産業省 工業統計調査より

国内製造業の労働者数

図2 国内製造業の労働者数

経済産業省 工業統計調査より

統計データのある1998年からのデータとなりますが、いずれも減少傾向にある事が分かると思います。
事業所数は373,713社が202,410社となり、45.8%の減少です。
労働者数は、9,837,464人が7,403,269人となり、24.7%の減少となります。

工業統計調査では、従業員の人数ごとに細かく規模が規定されているのですが、ここでの集計では、20名未満を零細企業、20~99名を小規模企業、100~299名を中規模企業、300~999名までを大規模企業、1000名以上を大手企業としました。

事業所数では圧倒的に零細企業の数が多いですね。

表1 事業所数と従業員数の変遷

事業所数と労働者数の増減

 事業規模別の変遷を表1にまとめてみました。
事業所別統計結果の掲載されている2002年から2014年までの12年間の変遷となりますが、これを見ていただくと一目瞭然ですね。

事業所数、労働者数ともに、製造業全体として減少しているのは確かなのですが、その減少の度合いは事業規模によって大きく異なるようです。

事業規模が小さいほど、企業も労働者も減少する割合が大きい事が見て取れますね。

端的に言えば、小規模な企業ほど淘汰が進んでいるという事でしょうか。
零細企業では、たった12年間で実に3分の2程度にまで減っているわけです。

この統計では、他にも興味深いデータが掲載されていましたので少し見ていただきましょう。

製造業の平均給与

図3 国内製造業の平均給与

経済産業省 工業統計調査より

国内製造業の労働生産性

図4 国内製造業の労働生産性

経済産業省 工業統計調査より

さて、図3、図4は、経済産業省 工業統計調査の結果をまとめたもので、それぞれの事業規模での労働者一人当たりの平均所得と労働生産性(年間)のグラフです。

この労働生産性は、製造業の労働者全体での平均値となります。
職人が稼ぐべき労働生産性とは異なりますので注意が必要です。

グラフから事業規模による格差がはっきりと見て取れます。平均所得も労働生産性も、零細企業と大手企業では、大きな差があります。平均所得では2~2.5倍程度、労働生産性では3~4倍程度の開きがありますね。

労働者一人当たりでみると、この12年間で平均所得も労働生産性もほとんど変化がありません。平均所得は規模が大きくなるほど、むしろ減少しています。

また、労働生産性は、2009年に大きく変化していますが、これは明らかにリーマンショックの影響と言えそうです。
この影響の度合いも、規模によってはっきりとした違いが見て取れます。

規模が大きくなるほど、2009年の減少幅が大きいのです。
零細企業ではほとんど影響を受けていないことが分かると思います。

つぎに、図5は、労働分配率を示しています。
仮に法定福利費、厚生費は15%としています。

図5 国内製造業の労働分配率

経済産業省 工業統計調査より

さて、上のグラフを見ていただくと、労働分配率は規模が大きくなる程下がっている事が分かると思います。

このギャップを良く覚えておいてください。
そして、もう一度図3の平均給与を見てほしいのです。
労働分配率は企業規模が小さくなるほど大きくなっているのに、平均給与は規模が小さくなるほど低下します。

小規模な企業ほど稼いだ付加価値を人権費に回す割合が大きいはずなのに、平均給与はまだまだ大手の半分以下という現実が示されていると思います。

つまり、小さな企業ほど稼ぐ力が弱く、従業員のお給料にお金を回せないという事ですね。

反対に大規模な企業程、相対的に労働者に高いお給料を払えており、なおかつそれ以外にもお金を回せているという事です。

3. 不合理な取引、してませんか?

少し脱線しますが、次のような事例を読んでみて下さい。

ある20名程度の規模の町工場の話です。
この町工場は、最新の5軸機械を設備しました。
タイミングよく大手メーカーから多品種少量の部品加工について引き合いを受け、取引を開始する事になったのです。

はじめは非常に多くの部品を手掛けますが、ことごとく不合格品を出してしまい、受注品目は品質の安定している4品目程度に絞られてしまいます。

ある時点から、お客様の品質管理の都合上、支給材料を直接取りにいかなければいけなくなります。
納品も宅配便ではなく、直接客先に納品に行かなければいけません。

この4品目の部品加工の加工賃は月に合計20万円ほどです。
加工の時間単価は4,000円/時間です。
リピート品としては、悪くない仕事と言えます。

客先までは、自動車で片道5時間かかります。
400kmの距離を、社用車で高速道路を使って毎回通っています。
月に平均2往復程営業の担当者が材料の受け取りと、納品に行っている状況です。
客先の担当者も、遠方から足繁く顔を出すこの営業担当者を気に入ってくれているようで、関係は良好です。

営業担当者は、一日に自動車で往復できないので、毎回現地に泊まり、時には客先の担当者の接待をしたりと営業活動に励んでいます。

通常の感覚の方であれば、こんなバカげた仕事を何故するのか疑問に思うのではないでしょうか。

確かに、職人の加工賃としては、4,000円/時間ですから、まずまずの仕事と言えると思いますが、そのために発生する営業費用はとんでもない事になっているはずですよね。

簡単に試算してみましょう。

ガソリン代: 燃費10kg/l、ガソリン代120円/lとして、1往復9,600円 2往復で19,200円

高速道路料金: 1往復で8,000円程度 2往復で16,000円

宿泊料金: 1泊6,500円程度 月2泊で13,000円

人件費: 月給30万円の営業担当者 4日分 (30×1.15×4/22=63,000円)

合計    111,200円

これだけでも、この案件だけで月に11万円のコストがかかっているわけです。

月間20万円の仕事をするのに、営業費用だけで11万円のコストをかけているのです。

実はこのコストは客先に請求もしていませんし、製造原価にも計上されていません。

上記はやや誇張した話となりますが、これに近い非効率な営業活動を強いられている中小零細企業が多いのは事実と思います。

客先の不合理な条件に合わせざるを得ない中小零細企業の立場の弱さを物語っているのではないでしょうか。

また、次のような話もよく聞きます。

ある町工場の営業担当者が、大手企業の購買担当者と価格交渉をしていた席でのことです。

ある量産案件について、この顧客からの初めての引き合いだったため、営業担当者は3,500円/時間の加工賃で見積を出しました。
本来は最新の機械を設備したばかりなので、5,000円/時間の仕事としたいところです。

この加工は、顧客の社内でも加工できるものだそうですが、社内工程が溢れてしまったので外注化する事になったそうです。

購買担当者からは、他社より5割ほど高いので仕事を出せないと言われてしまいました。

通常大手企業の社内工程は8,000~10,000円/時間と言われます。
それを1次外注に5,000~6,000円/時間の仕事として外注化します。
1次外注業者が更に下請けに外注するのであれば、4,000円/時間程度で外注化するのが常識的と思います。

私の記憶している限り、少なくとも10年前までは、このような単価の相場が暗黙の了解のもとあったように思います。

この営業担当者は3,500円/時間で見積もりましたが、他の業者よりも5割も高いとの事です。
他の業者とは、3,000円/時間を切る単価で取引をしているという事なのでしょう。

今の相場感では、社内工程であれば8,000~10,000円/時間の仕事を、外注化する事で約3分の1に減らせるわけです。

先にふれたとおり、3,000円/時間は通常の仕事の水準からすると極めて生産性の低い仕事と言わざるを得ません。

これらの事例からいえる事は、中小製造業の労働生産性が低いのは、仕事の水準そのものが低いというよりも、仕事のレベルに対する対価の水準が低いからという事が言えそうです。

今回はまず、製造業における受託加工ビジネスの変化について触れてみました。
淘汰の進む中小の受託製造業ですが、その多くは労働生産性の低さにあります。

そして、利益が出ないビジネスを余儀なくされた末に、倒産・廃業を選ぶ中小製造業があまりにも多いのです。

その最も大きな要因が、顧客との「値付け」に関する交渉が適切に行われていない事ではないでしょうか。

多くの発注元(通常はメーカー)の調達担当者は、自分の捌くべきアイテムをより安く仕入れられれば良いわけですね。

受注する業者が安値合戦をしてしまい、結局は利益の出ない値段で仕事を受けることが常態化してしまっています。

当社では、4,500円/時間が標準です。
これは、日本人の労働生産性の平均値から算出される最も妥当な「値付け」と言えます。
製造業であれば、本来6,000~8,000円/時間を目指すべきですが、現在は4,500円/時間です。
実はこの単価でも「高い」と言われることがほとんどなのです。

値付けについての感覚が、発注側、受注側共にマヒしてしまっている事を物語っているのではないでしょうか。

発注側、受注側がパートナーとして継続的に双方発展していくために必要な事、お互いに必要な取引金額とは何か、見直す時期に来ているのかもしれませんね。

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