受託製造業のビジネススタイルを知ろう!
1. 町工場のビジネススタイルとは!?
皆さんが町工場に加工の仕事を依頼した後、町工場サイドでは一体どのようにその加工案件が処理されていくのでしょうか。
ここでは、受託製造業の工期、加工スケジュールについての考え方をまとめてみます。
町工場の典型的なビジネススタイルは次のような2通りが考えられます。
① 大口顧客からの量産品や大ボリューム案件の受託製造
② その他顧客からの単発品、小ロット品の受託製造
①はその町工場ビジネスのメインストリームです。基本的にはそのお得意様用に機械設備を整え、社内体制を構築していると言えます。
そうは言っても、お得意様のビジネスだけでは会社規模を支えきれなくなってきている町工場が非常に多いのが現状です。
理由は次の通りです。お得意様の仕事だけで機械設備が100%稼動していれば、恐らく問題ありません。しかし、受注タイミング、受注量は全てお客様次第の受注製造業ですので、製造側の要望どおりには仕事は回ってきません。
タイミングによっては機械が数日空いてしまったり、1シーズン丸々受注が来なかったり、、、といったことも起こります。
そこで登場するのが②のような、単発案件の受託製造です。どんなお客様からどんな案件が飛び込んでくるかわかりません。
しかし、うまく空いた機械の穴を埋められれば、それだけ収益が良くなります。
町工場の多くは、①を基本としながらも、②をうまく組合せて事業運営をしているところが多いようです。
もちろん、ほぼ100%が①のような固定的な仕事を請負っている会社もありますし、試作屋さんのようにほぼ100%が②のような単発案件ばかり請負っている会社もあります。
ただ、残念ながら①のようなビジネスは、海外生産の対象となることが多く、日本国内では生き残り難くなってきています。
2. 町工場の工程管理は「モザイク模様」!?
さて、町工場ではそのような受託製造案件をどのように管理・運営しているのでしょうか。
機械設備を主とした加工業者では、加工機械ごとのスケジュール表を作成し、工程管理を行っている所が多いようです。
少しイメージを持って頂けるよう、スケジュール表の簡単なサンプルを見てみましょう。
縦軸が加工機械、横軸が日程の表となっています。
まずは、お得意様の加工案件だけを抜き取ったものを表示してみます。
色を塗ってある部分が加工機械で加工する予定が入っている事を表します。
同じ色は同じ顧客であることを表します。
※ 工程管理の仕方やスケジュールの作り方は個々の会社で異なります
ここからこの町工場で流れている仕事の色々な事が読み取れると思います。

例えば製品Aというのは、旋盤1→フライス1→放電1といったように複数の加工機械を経て製造されることがわかります。
また、製品Aや製品B、製品Eは定期的に入ってくるようですが、
製品Cのようにたまにしか入ってこないけれど一定期間機械を占有するような案件もあります。
また、フライス2は製品Eを製造するのに使用していますが、週に1日ずつしか稼動していません。
フライス3や旋盤3に至っては、まったく使われていないようです。
老朽化して使えなくなってしまったのか、以前は使っていたけれどその仕事が無くなってしまったのか、 色々と想像してしまいますね。
いずれにしても、空白の部分が多く見られます。
これだけで会社として維持、発展していければ良いのですが、
そうも言っていられない時代です。
恐らくこの稼働率では、十分にその規模を維持できないでしょう。
現実としては、この空白部分に単発案件をどんどん入れ込んでいくわけです。
お得意様用としては使わないような機械も積極的に活用していきます。
恐らく実際には次のような感じになっていると思います。

上のスケジュール表と見比べていかがでしょうか。
ずいぶんと色鮮やかに、まるでモザイク画のようなスケジュールになっていると思いませんか。
3. 費用は「時価」 納期は「タイミング次第」 ”今”を生き抜く町工場の処世術
さて、ここまできてやっと納期の話です。
単発や小ロット案件の場合の納期はどのように設定されるのでしょうか。
もちろん、大きさや難易度などによって大きく変わります。
ここでは、一番お問合せの多い、手のひらサイズから数百mm程度までの、中級サイズの切削加工品についてイメージしてみましょう。
図面などを提示して納期を尋ねると、概ねこんな回答が返ってくるのではないでしょうか。
標準納期:3~4週間程度(詳細は発注タイミング次第)
比較的簡単に作れそうなものでも、これくらいの納期を提示されることが多いと思います。
その理由は、まさに先ほどのモザイク模様からくるのです。
どの町工場も、常にスケジュール表を加工案件で埋めるために必死になります。
色々なお客様からの引き合いが同時進行で進み、注文が確定する度に、時々刻々とスケジュール表が埋まっていきます。
だいたいが目先の2週間程度は常に埋まっている状態です。
ですので、基本的には注文を受けても2週間程度は加工に着手できません。
実際に加工そのものに要する期間が1~2週間としても、
着手するまでのおよそ2週間が加わって、標準納期3~4週間という回答になるわけです。
ただ、偶然スポット的に機械が空く場合もあります。
こういったときは、超短納期でも対応できたりします。
逆にタイミングが悪いと、「あと5分早ければ。。。」なんてこともあります。
4. 短納期を素早く確定する発注のコツ
そうは言っても、手持ちの加工案件を短納期で余計なやり取り無しで迅速に決めたいのは、発注者様も町工場側も一緒だと思います。
そこで、短納期品を素早く確定するための、必要な情報を列記してみます。
① 製品の仕様、品質要求をできるだけご提示下さい
・ 図面、CADデータ、仕様書
・ 文書化されていない、その他特記事項
② 受託の範囲をできるだけ明確にして下さい
・ 材料は支給なのか自達なのか(支給の場合の材料サイズ)
・ 表面処理を含めるかどうか
③ 日程に関する情報を明確にご提示下さい
・ 納品期日
・ 見積期日、発注予定日 ← これが非常に大事です
④ 発注数量やリピート性についての情報をできるだけご提示下さい
・発注数量
・リピート性/発注頻度
⑤ ご予算があればできるだけご提示下さい
特に予算単価、類似品実績単価など、見積金額の参考となる単価があればできるだけご提示下さい!
要求事項や難易度などによって、見積金額は数倍の振れ幅があります。
それを一定の範囲に抑えるには、できる限りの情報をご提示いただきたいのです。
5. こんなにも違う!「見積金額」の不思議
受託製造業における、見積金額の相場をご存知でしょうか。
特に最近の傾向から述べますと、極端に言えば「時価」です。
「相場」といった感覚は無くなりつつあると思います。
以前は図面を複数の加工業者に渡して相見積を取ると、ある程度の範囲で似通った見積金額が提示されたのではないでしょうか。
A社が50,000円、B社が52,000円、C社が45,000円といった感覚でしょうか。
現在は、数倍程度バラつく事がザラです。
A社が50,000円、B社が100,000円、C社が30,000円といった感覚です。
理由は次のことが考えられます。
① 海外企業との競争で低価格路線の加工業者が増えた
② 同じ図面でも見積担当者によって、見方が大きく異なる
①はグローバル競争の中で、受託製造業も例外でないという事を表しています。
特にアジア圏で受託製造を安価で請負う業者が増えたため、国内の受託製造業者も低価格路線で請負う会社が増えたように思います。
以前のブログで「時間単価」という部分に触れましたが、
会社を継続していく上で絶対に割ってはならない時間単価の水準を大幅に割ってでも仕事を取ろうとする加工業者も増えてきています。
②は特に複雑形状、高精度加工などの高付加価値案件に当てはまる事が多いのですが、見積担当者によって考える工数、工期が大きく異なります。
これは、見積の際に提示される諸条件により、かなりの影響を受けます。
こんな不確定要素が入り混じって、3倍程度は見積もり金額がばらつくわけです。
いかがでしょうか?受託製造業サイドのビジネス観についてまとめてみました。
受託サイドはこのような観点で動いているという事をまずはご理解いただきたいのです。
その上で、発注側、受注側それぞれでどのように交渉すればスムーズなビジネスに繋がるのか、試してみてください。
既に国内の受注業者は猛烈な勢いで淘汰されています。
生き残った業者は薄利多売のビジネスと、高付加価値ビジネスとに2極化しています。
前者は更なる淘汰が進み、後者は既に顧客を選んでいるフェーズです。
以前のように発注者側が全ての主導権を持つ時代が終わりつつありますが、それをご存じない発注者様が多いのが実情と思います。
受注側、発注側の事情が分かったうえで、うまく橋渡しの出来るインテグレータ、ハブ機能の存在が強く求められている時代と言えます。