004 仕事の値段 - 日本の低い生産性と給与水準

1. まずは給与水準の変化から知ろう!

今回は日本の生産性や仕事の価値についてご紹介します。

皆さんは自分たちが普段している仕事の価値について考えたことがあるでしょうか。
自分のお給料を働いた時間で割って、時給いくらといった計算をしてみた人も多いのではないでしょうか。
これは、仕事に対する労働者としての取り分の話ですね。

本来仕事の価値とは、自分の仕事に対していくらが顧客から支払われたかで測られるべきですね。
つまり、仕事の価値=付加価値という事になります。
そして、労働者1人あたり、あるいは労働時間1時間あたりの仕事の価値が、労働生産性と言われる指標です。

今回は、まず日本の労働者の平均的な給与水準や労働生産性について情報を共有したいと思います。

日本 平均給与

図1 平均給与の推移
(国税庁 民間給与実態統計調査より)

まず、上のグラフをご覧ください。これは国税庁の公表している、民間給与実態統計調査をグラフ化したものです。

労働者の平均的な給与所得(年収)の推移を1978年から2017年までプロットしたものになります。
男女平均の給与所得は直近で420.4万円となります。
最大値は1997年で467.3万円ですので、20年間で46.9万円平均年収が下がっている状況です。

労働者の給与が1997年と比べて目減りしているのは驚きですね。
日本のサラリーマンは、実は低所得化しているのです。

この数値は平均給与の名目値と呼ばれます。名目値とは実際に支払われた金額ですね。
名目値と同様によく聞くのが、平均給与の実質値です。
実質値は、物価の変動を加味した所得となります。

3. 実は先進国でも低い給与の成長率

次に、日本の給与水準が国際的にみてどのような位置にあるのか、OECDの公表している興味深いデータがありましたので見てみましょう。
まずはOECD加盟の主要国の平均給与の成長率を図2に示してみます。

平均給与 実質値

図2 平均給与 実質値 成長率 (自国通貨ベース、1991年を1とする)
OECD公表データ(www.oecd.org)より

図2は各国の自国通貨ベースでの平均給与 実質値を、1991年時点で1とした場合の成長度合い(倍率)です。
傾向としては各国とも概ね右肩上がりの様子が分かります。

経済的に不安視されるイタリアと日本は横ばいが続いていますが、日本とイタリア以外の国々では、1991年時点に比べて概ね30~50%は実質給与が増加していることが分かります。

平均給与 実質 購買力平価換算

図3 平均給与 実質 推移(購買力平価換算値)
OECD公表データ(www.oecd.org)より

続いて図3は、平均給与 実質値をドルに換算した場合の推移です。
基軸通貨であるドルに基準を合わせる事で、その国の平均給与が国際的にどの水準にあるのか比較できますね。

人件費が高いといわれる日本ですが、平均給与ではドイツよりも低く、近年では韓国に抜かれ、アメリカの半分近くという事が分かります。

ここで示される主要先進国の中では、最も低い水準となるようです

現在G7の一角にも数えられる日本で、実は労働者の平均給与が上がらず、他国に比べて低い方だという事は意外だったのではないでしょうか。

4. 仕事の生産性とは?

平均的な給与水準が把握できたところで、次に労働生産性について考えてみましょう。
労働者の平均給与と、企業活動における付加価値額を結びつける指標として、労働分配率があります。

実は、人件費とは稼いだ付加価値の分配という側面があります。
付加価値のどれだけの割合が分配されたのかを示すのが労働分配率です。

労働分配率 = 人件費 ÷ 付加価値額

ここでの人件費は、給与所得に加え、企業側で負担する法定福利費や厚生費を加えた金額となります。

財務省の年次別法人企業統計調査では、企業の付加価値の構成を公表しています。
企業の付加価値額のうち、人件費の占める割合=労働分配率ですので、調査結果から見ると日本企業の平均的な労働分配率は直近のH28年度で67.5%という事になりそうです。

平均給与が420.4万円、平均的な労働分配率が67.5%ですので、ここから日本人の平均的な1年間に稼ぐ付加価値額を逆算してみましょう。

法定福利費、厚生費は合算で平均所得の15%程度と見積もってみます。

 労働分配率 = 人件費 ÷ 付加価値額

 労働分配率は、上式の通りでしたので付加価値額は下式の通りとなると思います。

 付加価値額 = 人件費 ÷ 労働分配率

                =  (420.4 * 1.15) ÷ 0.675

                   =  716.2万円

この716.2万円というのが、平均的な日本人労働者が生み出す年間の付加価値額と言えそうです。
これは、日本の平均的な労働者が生み出す年間の付加価値額=GDPと言えます。

統計データで良く目にする一人あたりGDPはGDP総額を総人口で割ったものですのでこの数値とは異なります。

厚生労働省の毎月勤労統計調査では労働者1人あたり総実労働時間の推移を公表しています。

直近のH28年度では、年間で1719.5時間となります。
昭和35年度に最も大きく、2,426時間となっています。

あくまでも厚生労働省の統計値ですので、いわゆるサービス残業はこの数値には入りません。
それにしても、昔は一年間に2400時間以上働いていた時代もあったという事に驚きますね。
現在よりも平均で4割程度多く働いていたという事になります。

H28年度における平均総実労働時間で、1人あたりの1時間あたり付加価値額を求めてみましょう。

付加価値額(時間あたり) = 付加価値額(年間) ÷ 総実労働時間

                                          = 716.2万円 ÷ 1719.5時間

                                          = 4,165円/時間

日本人の労働者は、1時間あたり4,165円の付加価値額を稼いでいる事になります。
労働者が1時間当たりに稼ぐ付加価値額は、前述の通り労働生産性となりますね。

単なる賃金の比較ではなく、労働者一人あたりの労働生産性を考えるとより実態に合った評価ができると思います。

5. 日本の労働生産性はやはり低い!?

労働時間あたりGDP 実質 購買力平価換算

図4 時間あたりGDP 実質 購買力平価換算
OECD公表データ(www.oecd.org)より

図4はOECD公表のデータから、実質の労働生産性(2015年購買力平価換算)を示したものです。

各国とも右肩上がりとなっており、労働生産性が向上していることが分かります。
グラフの傾きが労働生産性の向上の度合いとなりますが、概ね同じような傾きを持っています。

この中で、日本の労働生産性はどのような状況かというと、2022年の時点で1時間あたり45ドルくらいです。
ドイツやアメリカの6割程度です。

先ほどの平均給与の状況からすると、アメリカとの関係はあまり変わらないようなのですが、ドイツとの関係は大きく異なるようです。

平均給与はドイツと日本は同程度でしたが、労働生産性を見るとドイツの方が日本よりもかなり高い水準です。
年間あたりと時間あたりで大分異なる数値になるようです。
同じ工業立国でありながら大変興味深いところです。

上記より言える事は、日本の給与水準も労働生産性も、先進国の中では低い水準という事です。

6. 「仕事の価値」とは何だろう?

今回はそもそもの仕事の価値について考えてみました。
同じ日本人が働く労働の価値は、現在のところ4,500円/時間くらいが標準と言えそうです。

しかし、他の先進国を見渡せば、もっとこの価値を高めていく事が可能であることがお判りいただけたのではないでしょうか。
先進国の中ではむしろ低いと言われている日本の労働生産性ですが、それでも1時間に4,500円の付加価値を生み出すのが普通だという事をまずは知っていただきたいのです。

まだまだ日本は、労働による仕事の価値が低く、ましてや労働者の賃金は上昇どころか目減りしています。
極端に言えば私たち受託製造業ばかりではなく、日本そのものが貧困化しているような事業環境と言えます。

そして、受託製造業の中でも淘汰が進んでいる企業は、この労働生産性が極端に低い企業です。

厳密には時間単価と労働生産性は異なりますが、時間単価で1,500~2,500円/時間程度の企業が多いのではないでしょうか。
長年これくらいの値付け感で仕事をしてきた企業の多くが、後継者もなく、倒産・廃業を余儀なくされています。

そして、発注側としてより適正な価格(4,000~6,000円/時間)の企業に仕事を依頼しようとしても、いきなり数倍にも加工賃が跳ね上がるわけですね。
そのようなご経験をされた発注担当者様も多いのではないでしょうか。

今後は更に供給側が減っていき、2極化も進んでいきます。
今のうちに、適正価格での取引による事業が成立するように、取引関係の再構築が必要となりそうです。

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