002 製造のコスト構造 - 製造費用の基本的な計算方法

1. 製造費用の考え方とは?

製造業における事業を考える上で、最も大事なのは製造(仕事)に対する対価の決め方です。
製造費用とはどのように決まっているのでしょうか。

今回は製造の中でも大きな割合を占める部品製造を例にとって、その製造費用について考えてみます。

部品を作り出す第一のステップは決められた素材を使って設計された形状そのものを作り出す事と言えます。

作り出した形状に対して、熱処理をして硬くしたり、研磨・研削加工で精度を出しつつ表面の粗さを整えたり、メッキなどの表面処理で機能を付加する事で、実際に製品に組み込み機能する部品を実現します。

まず、形状を作り出す方法は、大きく次の3通りが考えられます。

① 機械加工: 金属の塊から不要な部分を除去(主に削る)ことで形状を作ります (切削加工、放電加工など)
② 製缶・板金加工: 板、パイプなどの素材を切ったり、曲げたり、溶接したりして形状を作ります
③ 成型加工: 金型に溶けた素材を流し込んで形状を作ります。大量生産に向いています

それぞれが大変奥の深い内容を持っていたり、場合によっては複合したりしますが、その製造費用を簡単に表すと概ね下記の通り共通して表現することができます。

製造費用 = ①初期費用/製造数量 + ②材料費 + ③加工費 + ④管理費

2. 1個目の生産に必要な費用=初期費用

初期費用とはその部品を製造するために、最初にかかる費用のことです。

この費用には概ね次のような項目が含まれます。

① 金型製作費用 (成型部品の場合)
② NCプログラム製作費用
③ 治具費用
④ 工具費用

金型製作費用:
金型とは、射出成型や鋳造・ロストワックス、プレスなどいわゆる成型部品を作るために必要な道具です。
基本的には金属のブロックを削って、凸凹が対となり合わせた時に部品と同じ形の空間ができるように作ります。
射出成型加工ではこの空間に、熱して解けた材料(プラスチックや金属)を流し込み、冷やして所望の形をした部品を作ります。
プレス加工や絞り加工では、金型に薄板を押し付けて、金型通りの形状を転写します。
金型製作費用は、その規模や形状、素材種類によって大きく変わりますが、概ね数十万円~数百万円といったあたりが相場と言えそうです。

NCプログラム製作費用:
NCプログラムとは、コンピュータ制御された工作機械で加工する場合に必要になる加工データのことです。
Gコードと呼ばれるコマンドや、工具の機械上での座標値等を羅列したプログラムで構成されます。
これを人が手で入力して作ったり、いわゆるCAMと呼ばれるプログラム作成用のソフトウェアで作ったりします。
また、3次元CAMなどで、3Dデータをベースにプログラムを作成する場合、3Dモデルデータを作成する費用が加わる事もあります。

治具製作費用:
治具とは、加工をしやすくするための補助的な道具を全般的に意味します。
何個も同じ部品を作るために、予め所定の位置に穴を開けておいたプレートを用意しておいて、それを共通して使う事で穴位置をケガく手間を省く、などの工夫をしたりしますが、こういったケガキ用のプレート等も一般に治具と呼ばれます。
また、素材を固定するための器材や、位置決め用の部品(ピンなど)も治具の一部として利用されます。
場合によっては、数十万~数百万円もするような専用治具の製作が必要な場合もあります。

工具購入費用:
工具とは、その部品を加工するのに必要な刃物や専用の道具を意味します。
特に切削加工の場合はエンドミルと呼ばれる刃物があり、場合によっては数十本のエンドミルが必要になることもあります。
このエンドミルを買い揃えるだけで、相当な費用がかかることもあります。
汎用的な工具は、消耗品としてカウントする場合も多いですね。

部品を製造するのに最初にかかる費用を初期費用として別途計上する場合もありますが、その費用を製造数量で割って製品単価に上乗せするという場合も多いようです。
この場合は、製造数量が多ければ多いほど上乗せされる単価は小さくなります。

逆に、製造数量が1個だけですと、初期費用がそのまま製品単価の上乗せされますので、場合によっては材料費や加工費よりも支配的な金額となることもあります。

初期費用を別途計上する場合は、同じものを繰り返し作る際にこの初期費用を考えないで済みます。

3. 材料費はキロ単価で概算可能!

材料費は、加工部品の素材そのものの購入費用です。

例えば切削加工の場合は、素材となるブロックを買ってきて、機械で削って部品を作ります。
材料の費用を考える際には、その都度材料業者に見積を取るのが最も正確ですが、おおよその費用は次のような計算で算出することができます。

 材料費[円] = 素材質量[kg] X キロ単価[円/kg]

キロ単価とは、素材1kgあたりの材料費となります。
ブロック材の場合は、アルミ(A5052)で1000円/kg程度、鉄(SS400)で300円/kg程度のあたりがおおよその相場です(2018年時点)。

材料は加工するために必要な適切な形状のものを選びます。
例えば円筒状の形状をしていれば丸棒材、比較的中身の詰まった四角い形状ならばブロック材などです。

素材質量は、下記の通り表されます。

素材質量[kg] = 素材体積[m3] X 密度[kg/m3]

素材体積は丸棒材ならば半径X半径X3.14X長さ、ブロック材なら幅 X 高さ X 奥行き、ですね。
出来上がる部品の形状を見ながら、少し削り代を余分に見て、規格サイズと比較して最も近い大きさの素材を選ぶことになります。

まとめると、材料費は次の通りとなります。

材料費[円] = 素材体積[m3] X 素材密度[kg/m3] X キロ単価[円/kg]

4. 加工費=付加価値

加工費は、素材に施す加工の費用です。
加工賃と呼んだりもします。
私たち製造業の個々の企業にとって付加価値となるものです。

加工費の考え方は業者によりそれぞれですが、概ね下記のような計算をすることが多いようです。

加工費[円] = 加工工数[時間] X 時間単価[円/時間]

加工工数は部品の加工に要する時間です。
時間単価は1時間の加工あたりに必要な費用です。
時間単価は、製造業に限らずあらゆる業種で使われる考え方だと思います。
受託製造業は概ね2,500~8,000円の範囲と考えてください。

大分幅はありますが、業者によって事情が大きく異なるためです。
無難な範囲としては4,000~5,000円程度が相場と言えます。

もちろん、この加工工数には、加工を施している職人の時間が計上されますが、機械の自動運転の時間、仕上げや検査、洗浄、梱包などの作業の時間も含まれるのが一般的です。

それぞれの工程で仕事をするための準備を段取りと呼びます。
作業場を整えたり、治具の準備をしたり、器材の運転準備をしたりする作業です。
製缶加工などのアナログ的な工程は段取作業が比較的短く済みますが、マシニング加工などの精密加工は、段取り時間の方が長くなるケースもあります。

1回の注文あたりの製造数量をロット数と呼びますが、ロット数が多いほどこの段取作業にかける工数を割がける数が多くなりますので、単価で見た場合の加工費を安くすることができますね。
自動化工程は特にロット数を増やす事によるコストダウンのメリットが大きい事になります。
逆にアナログ的な工程は、ロット数を増やしてもあまり単価が変わりません。

5. 時間単価について考えよう!

時間単価とは時給のようなものと表現しましたが、このように書くとアルバイトの人件費のようなイメージをもたれるかもしれません。
もちろん、加工を施すためには、作業者の人件費がかかります。
作業者の人件費は、製造費用の主要な項目となりますが、実際にはそれだけがかかっているわけではありません。

例えば、精密機械加工であれば、マシニングセンタといった高価な工作機械を使います。
この工作機械の取得に要した費用や、切削油、工具代といった消耗品の費用もプラスされます。

また、製造という事業をするための費用、例えば工場の家賃、事務員の給料、その他経費などが時間単価に含まれてきます。
要するに事業を継続して行くのに必要な費用を全て時間単価に含めて考えるわけです。

以前はこういった細かい事まで考えて時間単価を計算していた業者は稀だったようですが、価格競争が進む中で各社ともギリギリ会社が成立する単価でないと仕事が取れなくなってきています。
ざっと簡単なシミュレーションをしてみましょう。

次のような製造事業を営んでいると仮定してみます。
・都内で20坪の土地を借りて、工作機械2台、自分も含めて現場作業者2名、事務員1名の町工場を経営
・家賃は月に20万円、従業員の給料は月に30万円
・工作機械の取得費用は付帯する設備等も含めて1台あたり3,000万円程度
・従業員の勤務時間は1日8時間、工作機械はある程度自動化してあって1日平均10時間稼動
・工作機械は借入をして設備し、その借入金は7年間で返済(簡単化のため利息は考えません)
・電気代は1ヶ月あたり10万円程度
・経費は事務員のお給料30万円を含め、工場での消耗品、光熱費、通信費など諸々かかって50万円程度

さて、ざっと機械の加工時間で1時間当たりの時間単価を積算してみましょう。

 1つの加工案件に対して、現場作業者1名がそのまま専任で機械1台を使って加工を担当するものとします。

  借入返済分 = 3,000万円 / 7年 / 12ヶ月 / 24日 / 10時間 = 1,488円/時間
 労務費 = 30万円 / 24日 / 10時間 = 1,250円/時間
 電気代 = 10万円 / 2台 / 24日 / 10時間 = 208円/時間
 家賃 = 20万円 / 2台 / 24日 / 10時間 = 416円/時間
 経費 = 50万円 / 2台 / 24日 / 10時間 = 1,041円 / 時間
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 合計 = 4,404円/時間

大まかにこの事業で顧客に求めるべき時間単価を計算してたところ1時間あたりに4,400円程度という事になります。
「高い」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんし、「安い」と感じられる方もいらっしゃるかもしれませんね。

1990~2000年くらいには、大手メーカーで10,000円/時間、中堅メーカーで6,000~8,000円/時間、末端の中小製造業で4,000~5,000円/時間程度が相場と言われていたようです。
上記の計算はまさに、当時の中小製造業の相場くらいですね。

加工作業者は自分のお給料の3倍の仕事をこなさないといけない、とよく言われるのですが、上記の数字がそれを良く物語っていると思います。
ちょうど、自分のお給料が1、設備の維持・償却費が1、会社の運営費用が1といったぐらいの割合となっているのがわかるかと思います。

もちろん上記は本当に簡単な計算しかしていません。
実際には、機械は1日平均10時間も動かないかもしれませんし、借入金の利息も支払っていかなければいけません。
社会保険に入っていれば、企業側の負担分も経費として発生します。

逆に、できる限り自動化したり、従業員を2交代制にして、1日24時間に限りなく稼働率を上げて、単価を下げ受注量を増やすといった経営努力をしている仲間もいます。

今回は、製造業のコスト構造についてはご説明しました。
製造費用=付加価値は、時間単価加工時間によって構成されている、という基本をまず知っていただければと思います。

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