切削加工で「できること」と「できないこと」

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その「ピン角」必要ですか?

「どんな形状でも実現可能な切削加工!」と前項で書きましたが、実際には実現が難しい、あるいは不可能な形状もあります。その代表例が、内角部の「ピン角」です。ピン角とは、丸みのないエッジが尖った角部のことです。

凸形のピン角は特に問題ありませんが、切削加工は凹形のピン角を加工できません。例えば、下図のような形状です。左の2つは2面に囲まれた内角部分です。右の例は自由曲面同士の境界ラインになります。

切削加工できないピン角の例

理由は次の通りです。

切削加工は、エンドミルを”回転”させて、任意の形状に動かす事で素材を削り取っていきます。エンドミルは横から見て先端が丸かったり、四角かったりします。しかし、これを上から見た場合、どんなエンドミルを使っても必ず円形に見えます。何故かというと、”回転”しているからです。

そうすると、エンドミルを動かしていって、折り返す部分は必ず円弧状の形状が残る事になるのです。これを、隅アールなどと言います。小さいエンドミルを使えば、もちろん隅アールは小さくできます。ただし、隅アールゼロ = ピン角にはできないわけです。

試しに上のピン角の例のうち、一番左の形状を加工しようとしてみましょう。そうすると、どんなにエンドミルの向きを変えて削っても、次の3パターンのいずれかの形状となり、隅アールが残ります。

隅アールの例

ピン角はどうしても必要な場合と、形状変更により回避可能な場合とで対処が変わってきます。

【どうしてもピン角が必要な場合】

キー溝加工を行ういわゆるスロッターと呼ばれる加工機やワイヤーカットで加工可能な場合以外は、型彫り放電加工機で加工することが一般的です。スロッターもワイヤーカットも、ピン角の例の真ん中の形状のように、基本的には同一形状で表から裏まで”抜けて”いる場合に限ります。型彫り放電加工機は、削りたい形状とは反転した形状の電極をまず製作し、それを近づけて電気の力で”じゅっ”と溶かすイメージの加工方法です。電極はグラファイトや銅が使用されます。

型彫り放電加工

型彫り放電加工は、放電加工そのものに加え、電極を製作する手間が余計にかかりますので、コストが嵩みます。金型製作など、ピン角そのものに意味がある場合を除き、できる限りピン角を無くすように設計した方が良いかと思います。

 ※ 上記手法でも厳密にはR0.02~0.05程度の隅アールがつきます。

【設計変更によりピン角を回避できる場合】
ピン角の回避を考える場合、次のシチュエーションが考えられると思います。
① 勘合部品がなく、比較的隅アールを任意に設定できる場合
② 勘合部品があり、制限はあるが隅アールを許容できる場合
③ 勘合部品があり、隅アールが許容できない場合

①の場合は、できるだけ大きく隅アールを設定して下さい。アールの向きは、他の加工部位との関連で設定すると更にコストを下げられる可能性があります。例えば輪郭や穴などその他の特徴的な形状の向きと、アールの方向を揃える事で、いわゆる段取り替えをせずに加工をする事で工程短縮することができます。

下の図を見て下さい。一見同じように見えますが、輪郭の形状と隅アールのつく向きが異なります。左側の形状は1度の加工で輪郭も隅アールも同時に加工できません。輪郭を加工した後、隅アールのつく掘込を上に向けてから加工し直す必要があります。右側の形状は、輪郭も、隅アールも1度に加工できます。どちらがコストが高くなるか、すぐにお分かりいただけるかと思います(※ 加工段取りについては、別頁にて解説します)。

隅アールの向き

②の場合は、隅アールの大きさは加工する深さの1/10以上として下さい。1/10よりも隅アールが小さいと、刃物がビビったり、折損する可能性が高まります。”ビビリ”が発生すると、壁面がざらついたり、抉れたりします。1/10よりも隅アールを大きく取れない場合は、③の対処を参考にして下さい。

隅アールと切削深さ

隅アールのある深さをL、隅アールの大きさをRで表現すると、切削加工の一応の限界は、L/R < 10となります。切削加工業者と調整する際には、この制約を常に頭に入れておいて頂けると、話がスムーズに進むと思います。

③の場合は、ニガシ形状を検討してみて下さい。例えば、下図のような形状です。本来の壁面から更にエンドミルの半径分だけ、外側に抉る形状とします。このときのエンドミルの半径は、上述の通りL/R < 10で設定して下さい。

ニガシ形状の例

切削加工を扱う上で、隅アールは切っても切れない関係です。隅アールの向きや、L/D<10など、実際の加工の事も念頭に置きながら設計をして頂けると、大変スムーズに製造を進めることができます。

ここにもあったか!アンダーカット

切削加工が苦手とする代表的な形状の代表例がもう一つあります。それは、アンダーカットと呼ばれる形状です。

アンダーカットとは、エンドミルが届かない”陰”になる部分にある形状です。素材の向きを変えれば加工できる部分であれば、段取り替えは必要になりますが加工可能です。言い換えれば、形状の外側にある窪みは基本的には加工可能と言えます。

ちょっと困ってしまうのは、例えば下の図のような形状です。どこから削ろうとしても手前の形状が邪魔をして、エンドミルが届きません。

アンダーカットの例

こういった形状の内側に窪みのある場合の対処は、次の通りとなります。

① アンギュラカッター、アンギュラアタッチメント・5面加工機での加工
② 型彫り放電加工機での加工
③ 設計変更(分割)

①はマシニングセンタでも特殊なエンドミルや特殊な仕様の加工機で加工するということです。アンギュラカッターは、刃が回転軸よりも横に突き出した形状をしていて、横に窪んだ形状を加工することができます。

アンギュラアタッチメントは、主軸に取り付け可能なアタッチメントです。これを取り付けるとエンドミルの向きを変えることができます。ただし、上の例のような場合、アンギュラアタッチメントも含めた部分を縦穴に沈めなければいけません。概ね150mm程度は入り込む隙間が無ければ使えません。

②は、前項でピン角の加工方法としても出てきましたが、こういったアンダーカットの処置としても使うことができます。ただし、電極の製作など、加工工数が増大しますので、コストが嵩む点も一緒です。

③は、アンダーカットのある部分を分割して、通常の加工で作れる部品の組み合わせとしてしまうという方法です。例えば下の図のような方法が考えられます。分割部品①と②に分けて、締結用のネジでとめるという方法です。

部品の組立には、用途に合わせて溶接・接着、ネジ締結、嵌めあい・カシメなど適切な手法を選択します。

分割の例

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